神戸在住の中国人の方に注意され、南京虫は、日本ではトコジラミと呼ばれるようになったが、このトコジラミは、半翅目トコジラミ科の昆虫である。よく似た名前のコロモジラミやアタマジラミとは別の種類である。
トコジラミは、翅が退化して飛べないので人間や物品に付いて移っていく。人や家具について移ることが多いが、毎朝配達される新聞紙こついて移ってくることもある。昭和25年頃には、波止場近くの酒屋さんがよくトコジラミの被害を受けた。これは船内の荷受けをする沖任(なかし)さんに付いてきて、酒屋さんで一杯やっているうちにトコジラミが店内に落ちて酒屋さんに居着いたらしい。酒屋さんで発見されるトコジラミには、神戸にはいないネッタイトコジラミ(タイワントコジラミ)が時々混ざっていた。
病院のベットの藁のマットにもよくトコジラミが付いていた。昭和30年頃、ある病院の藁マットに殺虫剤のリンデン乳剤を撒布したところ、成虫、幼虫取り混ぜて163匹もの死骸が発見された。これは婦長さんが1匹ずつピンセットではさんでバイヤル瓶に入れて見せてくれた。有馬の旅館等でもお客さんがトコジラミの被害を受けてよくトラブルの原因になっていた。
トコジラミは殺虫剤に強く、又その生態がよく分からなかったために、その駆除は困難であった。しかしトコジラミは、室内の鴫居等比較的高い所に巣を作ることが分かった。吸血のため人間に近づくのに、天井にのぼり人間の炭酸ガスをセンサーで捕らえ、人間の顔めがけて落ちてくることも分かった。今まで畳の下や室内の低い部分に殺虫剤を散布していたのを、鴨居や天井等にも殺虫剤を撒布するようになり、又昭和40年頃より使用されだした有機燐系の殺虫剤が効果的によく効き昭和50年頃にはトコジラミも全滅した。
しかし、最近集合住宅を中心にトコジラミの被害が出はじめている。神戸のような港町の宿命かもしれない。
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